少子高齢化が進むと年金受給者が増える一方で、健康保険料納付の主体となる労働者人口が減ってしまいます。医療費がかかる高齢者が増加するのに、その保険料を納める人口が減少してしまうのです。かつて、医療費の自己負担は健康保険を使えば1割で済み、高齢者は無料で受診できました。やがて3割負担が一般的となり、高齢者も収入に応じて自己負担分を支払うことになったのです。しかし、医療費の自己負担額はこのままでは足りなくなり、高齢者の自己負担額はさらに増えると言われています。
このように、高齢者の医療費負担が増大すると、年金だけで生活を送るのは難しくなるでしょう。退職金を貯蓄したり、消費をおさえたりする高齢者が増えて、社会全体の消費が落ち込み景気回復が大幅に遅れる恐れがあります。消費税が導入された状況で医療費負担も増加すると、消費が減るのは当然と言えます。医療費負担の問題は、社会全体に大きな影響を与えるのです。医療費を減らすためには、医療従事者の人件費を減らすことが重要となります。医療費支出の中で大きな割合を占めるのは人件費だからです。
医療にAIやIT技術を導入し、医療従事者の負担を軽減すると、医療現場に必要な人員も減って医療費削減につながると予想できます。少子高齢化自体を止めることは不可能なので、ハイテクを利用した医療の合理化に頼るほかないでしょう。医療の機械化と自動化が進めば、医療費全体の支出も減り、健康保険料も増えずに済むかもしれません。
日本の医療費問題は非常に由々しく、これから少子高齢化が進むほどに社会保障費が国費の中で占める割合が大きくなっていくと考えられるだけに、国は医療費を削減する方向へと国策を転換しています。国の財政が行き詰ってからでは遅いため、徐々に実際の制度として反映されていくものと考えられます。予防医療にお金をかけることで病気になる国民を減らし、医療費を削減しつつ健康寿命を延ばそうとする取り組みもやがて限界を迎えることでしょう。そうなった場合、どのような制度改革が行われるのでしょうか。
まず、現在目論まれているのは国民健康保険で保障できる範囲を限定するというものです。例えば、ある検査は1年に1回なら保険診療でできるけれど、それ以上は実費がかかるなどです。期間ごとの診療や検査の回数を制限することで病院にかかる回数を減らす、という方針で徐々に実現しています。やがて全く保険診療できない分野が拡大する、などの未来が懸念され、本当に命を左右する医療以外は保険の範囲から見直されて消えていく可能性があるのです。
また、保険点数自体の見直しも行われています。点数、とは医療の価格を決定する指標であり、点数が下がれば医療の価格が下がるため患者にはいいことのように聞こえます。しかし、薄利多売とはいかない医療で病院の利益を切り詰めると、病院の生き残りが難しくなり、余力のある医療機関以外は潰れる可能性があります。比較的安定していた医療業界ですが、これまで通りではいられないかもしれませんね。
日本の医療費は、窓口で支払う患者の負担金以外に私たちが支払っている健康保険料と税金などによって支えられています。つまり、全体の医療費が増えることにより私たちの負担も増えるということです。では、高齢者が増えるとなぜ、医療費が増えるのでしょう?
働き盛りの世代に比べ、高齢者は4倍の医療費がかかると言われいます。これは、単純に病院に通院する頻度が増え、年齢を重ねるごとに持病を複数抱えることで、かかる治療費が増えることが主な原因です。もう一つの原因となっているのが、薬の種類です。病院を受診して薬をもらう場合、成人は3種類前後ですが、70~74歳になると3.8種類程度に増加し、さらに75歳~79歳になると4種類に増えます。85歳以上になると、5種類を超えます。年齢に比例したかたちで薬の種類が増える傾向にあるのです。つまり、治療に使う薬の種類が多い高齢者が増えれば増えるほど、医療費も全体的に増加してしまいます。
そして、気をつけなければならないのは、この問題が高齢者だけが原因ではないということです。確かに、高齢者の増加が医療費増加の直接的な原因かもしれませんが、その裏で少子化の問題が影響しています。複雑な問題が重なり合い、医療費は増加し続けているのです。医療費をこれ以上増やさないために、健康診断をきちんと受診して予防や早期発見をしたり、健康的な食生活をして健康維持を心がけたりすることが、国民全体で必要になってくることでしょう。
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